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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.170 (2008/01/03 13:29) title:フェアリー・テール
Name:しおみ (l198059.ppp.asahi-net.or.jp)

前書き
突然ですが、おとぎ話の裏には複雑な世の中を賢く生き抜くための処方箋ともいうべき知恵と教訓が多く含まれています。本日はそのなかのいくつかをご紹介してみることに致しましょう。

■『金の斧』
あるところに働き者で時に融通きかない正直者のきこりがいました。
ある日、きこりが森の奥でいつものように大きな木を切っていた時のこと。勢い余ったきこりの手から大事な斧がつるりと滑り、あっと
振り向いた時には、後ろにあった湖にぼちゃんと落ちてしまいました。
きこりは慌てました。青く深い湖を覗き、生真面目そうな眉間に皺を寄せて、
「なんということだ、もぐれるだろうか」
と思案に暮れていたその時です。
ふいに湖が泡立つと水面がゆれ始めました。思わず身構えたきこりは、次の瞬間、声も出ないほど驚きました。
まるで雲母がきらきら光るように──着ている方が放送コードギリギリの薄物衣装をまとった人の姿が湖の上に浮びあがったのです。
しかもその面は華のごとく、微笑むとあたりの空気が紫ラメに輝くような超絶美人です。その方は驚くきこりにいともマイペースに言いました。
「人の住まいに斧なんか投げ込んで、どんな奴かと思えば、運がいいね。おまえが不細工だったら沈めているところだけど可愛い雛だから
特別に聞いてあげる。おまえが落したのはこの金の斧か、それとも銀の斧か」
いきなりクイズです。しかも、ほっそりした指が差す方を見れば、ギラギラ光る黄金の斧とこれまたギラギラ光る銀の斧とがこれみよがしに
宙に浮いているイリュージョン。
が、実直なきこりはそのヤバイ衣装に赤面、狼狽していたので俯いたまま、
「い、いえ、私が落したのは鉄の斧です」
弾む動悸を押さえるのに必死で、『それ以前にそんな金銀で木は切れません』との突っ込みも思い浮かびません。
と、美しい人は微笑んで、
「ふふふ、初心な雛は可愛いよねぇ。それに馬鹿がつくほど正直だしねぇ。では、おまえの斧を返してやろう」
と、指を払えばあら不思議、きこりの膝もとに使いなれた斧が現れたではありませんか。きこりはおおと安堵の声を漏らします。
勢いよく顔を上げ、
「ありがとうございます!」
叫んだ後でまた赤面。懲りない様子に美しい人はさらにご満悦らしく、ふふふと微笑い、
「おまえの正直さの褒美にこの金と銀の斧もやろう。家宝にするといい」
使用目的限定勝手にファイナル・アンサーです。きこりは慌てて居住いを正し、
「わ、私はしがないきこりですからそのようなものを頂いても持てあましてしまいます。しかしあなた様のような方に巡り会えた奇跡の証に、
ひとつだけお伺いしたいことがございます!」
 期待に頬紅潮させるきこりに、美しい人は艶然と、
「本当に欲がない雛だね。いいよ、特別に許してあげる。なんだい?」
 と、きこりは一転まじめな顔で、
「このような湖にお住まいであるあなた様はもしや伝説の……」
「伝説の?」
「カッ……」
パ、と言う前に、きこりの脳天にはドゴッ!! 突き刺さった金銀の斧の下から血飛沫上げて後ろに倒れるきこりに、吐き捨てる声が、
「可愛いからってどんな失言も許されると思ったら大間違いだよ、雛っ!!」

これは『雉も鳴かずば撃たれまい』という教訓を含んだ、おとぎ話です。

    *

■『眠り姫』
あるところに、魔女の呪いにかかって、百年の眠りに就いている美しい姫君がいました。
これまで幾人もの勇気ある騎士がその姫を救い出そうと挑みましたが、姫の眠る城をとり囲む、切っても切っても生えて来るシュラムとかいう
アグレッシブな茨に負けて、目的を果たせませんでした。
しかし、ちょうど呪いから百年目のある日、とある南の王国の王子が、その茨の城を訪れたのです。王子は国一番の勇敢な騎士。時に過ぎたるは
尚及ばざるが如しと噂されるほどの短気な強者です。
びっしりと城を取り囲み、悪意に満ちたざわめきでその刺を揺らす茨を見上げた王子は、不敵な輝きに瞳を燃やし、正々堂々言い放ちました。
「俺が相手になってやるからかかって来い!」
かくしてゴングは鳴り、王子がその剣を振って太い茨をバサッと切り裂くと、茨がうねりを上げて王子を攻撃。王子がえいっと切る。
茨がビュンッと反撃。茨が攻撃、王子がバサッ。王子、茨、茨、王子。お互いヒットポイントなしに延々と勝負が続きます。
と、ついに茨が王子の頬にピシッとかすり傷! その瞬間、国一番の勇者で国一番の短気を誇る王子の瞳がルビーに燃えて、
「くそーっ、なんだ、この化け物草っ! これでも食らえーっ!!」
と、放たれたのは王子の必殺技、『火焔砲』! 悲鳴のようなきしみを上げて一気に燃え上がる茨に王子は会心の笑みを浮かべ、
「よしっ、ざまーみろっ」
すっきりすると馬に飛び乗り故郷へと凱旋。
その背後で音を立てて燃え上がる城の中で眠り姫はいったいどうなったのか──。
これは『時に現実より夢のなかにいた方がましなことだってある』、という、おとぎ話です。

               *

■『サンドリヨン』
あるところにサンドリヨンと呼ばれる娘がいました。サンドリヨンとは灰被りの意味で、意地悪な義理のお姉さんふたりに日々こきつかわれ、
暖炉の側で寝させられていることからついた名前です。
その日も、王宮で開かれる舞踏会のためにサンドリヨンの高飛車な姉さんたちは朝からサンドリヨンをこきつかっていました。
「ほら、サンドリヨン、靴を持って来なさい! 早くしないと遅れてしまうでしょう!」
「私の髪飾りはどこ? 全く、サンドリヨンはなにをやらせてもダメなんだから」
王子様との玉の輿で中央政権狙う野心家の姉さんたちの命令に、サンドリヨンははいはい笑顔で尽くしていました。
が、軍艦のように飾り立てた姉さんたちが馬車に乗って王宮へと向うと、その態度は一変。頭の灰除け投げ打って、
「ったく! 鏡見ろっーのな! あんなケバくて年食ったヤツら、どんなぼんくら王子だって誘いたくねぇつーの! つか、働かせたいなら
金払えっつーのな!」
腕組みするサンドリヨンは、灰被りの上に猫かぶり。外へ出れば王宮の明かりが小高い丘の上に煌煌と点ってサンドリヨンを嘆息させます。
「腹減ったなぁ……」
食べればその分メタボまっしぐらな姉さんたちと違って、サンドリヨンは育ち盛りの食べ盛り。色気も食い気もありありありのお年頃です。
王子様にもダンスにも興味はありませんが、王宮に用意されているというごちそうのことは気になります。台所にあるのはかびたパンと
チーズのひとかけら。んなもん髪の毛一筋の栄養にも足りません。
ぐうぐう鳴く腹の虫にサンドリヨンが我慢しかねて、
「腹減ったぁぁ! ああくそっ、誰かいますぐものすごいごちそう食わせてくんねーかなーっ!!」
全身全霊、叫んだその時です。
パッと目の前が光り、
「あなたですか、ごちそうが食べたいと願った人は?」
現れた人にサンドリヨンは愕然と目を見張ります。それは白い長い髪に三角帽子、ほっそりした腰のものっすごい美人魔法使いの姿です! 
魔法使いはそのきれいな顔に食いつきたいような笑みを浮かべてこう言いました。
「あなたの切実な願いが耳に届いたので来ました。吾があなたの願いを適えてあげましょう」
「えっ、マジで! ほんとにいいのかっ?」
喉を鳴らしたサンドリヨンにうなずいて、
「もちろんです。では、さっそく始めましょう。このマッチを擦ると……」
と、懐から煉獄印のマッチを取り出しかけた魔法使いは、悲鳴を上げました。
「なにするんですかっ!」
「え、だって願い適えてくれるんだろ?」
と、その首筋に齧りついたサンドリヨンが答えます。
「だからこれからその説明をするところでしょう!」
「えっ、説明なんか要らないって。俺、場数は踏んでっから。それに優しくするし痛くしないしさぁ」
「えっ、なんの話ですか? あなたはごちそう食べたいだけでしょう?」
「うん、ごちそう食べたいし、それを適えてくれるんだろ。だから、いっただっきまぁぁーーーーーっす!!」
と、目の前のごちそう美人に齧りついたサンドリヨン。魔法使いの悲鳴が響いたその後は──

「一体ここでなにが起きたんだ?」
明け方になり、メイクも崩れ、若い赤毛に夢中な王子様に玉の輿の夢破れて戻って来た姉さんたちが見たものは、家の前に散らばるマッチの
残骸と、何事ですかっ、ちゅーくらい乱れまくった寝室に、
『恋人できたんで、アデューッ!』
浮かれながらもいままでの駄賃代わりに金目のものかっぱらって家出したサンドリヨンの実にふざけた書き置きひとつ。
これは『猫でも恥でも衣服でも、とっととかなぐり捨てたもん勝ち!』という、あくまで、おとぎ話です。

■使用上の注意
この教訓は体験者の経験に基づくものであり、効果には個人差があります。ご利用は計画的に!


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