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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.149 (2007/09/06 22:26) title:火姫宴楽(9)
Name:花稀藍生 (p1054-dng28awa.osaka.ocn.ne.jp)


 長い髪をきりっと一つにまとめ、身軽な服装で長棒を持って中庭に現れた姉の姿に、
病気だとずっと言い含められていたアシュレイは始め心配そうに見ていたが、 レースと
姉が手合わせする段になって、ようやく安心したようだった。 芝生の端っこに座って
のんきに姉に声援を送っている。しかし残念ながら弟の声援はグラインダーズの耳には届
いていない。
「・・・・・!」
 レースに向かって打ち込みながら、グラインダーズはまたしても自分の力のなさに怒り
狂っていた。 いくら打ち込んでも手応えがない。いや手応えがないのではなく、攻撃を
すべて流されるのだ。あっという間に息が上がったグラインダーズに対し、レースは余裕
しゃくしゃくだ。
 小休止のあとでレースの提案によりアシュレイと二人がかりで攻撃することになった
のだが、これもまたいくら攻めてもレースは びくともしない。
「アシュレイ!」
 姉に遠慮があるのか今ひとつ攻め込みが甘いアシュレイに、グラインダーズは目配せを
した。 何かぴんと来るものがあったアシュレイは飛び離れるとグラインダーズとタイミ
ングを合わせて横合いから同時にレースに攻めかかった。
「?!」(×2)
 二人の目の前にレースの姿はなく、長棒が突き立っているだけだった。勢いが付いたま
まだった二人の棒先はそれを左右から挟み込むように打ち据える形となり、衝撃で長棒は
跳ね上がってくるくると回りながら空を飛び、石畳の通路の上に落ちた。
 長棒が甲高い音を立てて中庭の石畳の上に転がった
「・・・レース?!」
 同時に打ちかかってきたと判断するなりレースは長棒を支点に棒高跳びの要領で彼ら
の頭上を飛び越えて二人の後ろに降り立った・・・・・ということに気づいたのは、慌てて振
り向いたところを大きな手にそれぞれ頭を掴まれて、側頭部同士をごつんとぶつけ合わさ
れてからだった。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」(×2)
 ・・・姉弟仲良く頭を押さえてしゃがみ込むのを見て、レースは笑いながら長棒を拾って
ゆっくり戻ってきた。 グラインダーズより一足先に立ち直った(石頭だけに)アシュレ
イは「俺もその技をマスターしてやる!」と長棒相手に格闘している。
 頭を抱えた手をようやく外したグラインダーズに、レースはにっと笑って聞いてきた。
「気は済みましたか?」
「・・・・・全然!」
 背の高い武術指南役を睨み上げ、目尻に涙を浮かべたまま怒ったように言い切るグライ
ンダーズに対し、彼女を見おろすレースはただ笑みを深くしただけだった。
 
「・・・ええ?! 力一杯握ってたって?両手で? そりゃ駄目ですよ、お嬢。 長棒っての
は伸縮自在を利点とするエモノなんですよ。剣と同じように扱っちゃ駄目ですって」
 文殊塾での事の次第をグラインダーズから聞き出したレースは「そーいえば、城では
剣の稽古が主でしたね・・・」と頭を掻いて天を仰いだ。
「私がそれで良いって言ったのよ」
 グラインダーズの武術指南としてよこされた彼は、最初 剣の扱いよりもむしろ暗器の
使い方を教えたがった。
 暗器というのは、体に隠し持つことの出来る小さな武器のことで、護身・暗殺などの非
常事態のために作られ、発達した武器の総称である。
 暗殺にも使われる・・・ということもあって、暗器というとあまりいい印象がないかもし
れないが、小さいため、たとえば上衣の飾り襟の裏やハンドバックの中、あるいは装身具
そのものに仕込めるため、女の護身用具としてはこれ以上に使い勝手の良いものはない。
 使いこなすことが出来れば、不当な暴力から身を守るのにこれほど適した道具はないだ
ろう。
 しかしグラインダーズはそれをきっぱりと拒絶したのだ。
 剣がいい、とはっきりと言ったのだった。
「・・・でも。・・・・・結局、力では勝てないのね」
 ため息をついて言うグラインダーズの言葉を、レースはあっさりと否定した。
「何を言っていらっしゃるのか・・・勝てるに決まっているじゃないですか。」
 振り向いたグラインダーズが「どうやって・・・?」と不審そうな顔をして聞くのに、レ
ースは何でもないことのように笑って言った。
「・・・・・お嬢。あなた『霊力』の存在を忘れてやしませんか? 霊力は第三第四の見えな
い巨大な手のようなものです。喧嘩の時だって霊力を使えば、長棒ごと相手の腕をへし折
ることだってできたんです」
 レースの言葉にグラインダーズはきょとんとした。・・・武器を使っての闘いの時に霊力
を併用してつかうなんて考えたことはなかったからだ。 霊力をつかうのはお互い霊力を
使っての遊びに近いじゃれ合いか、素手の時ぐらいだ。
「・・・そんな馬鹿な。文殊塾の武術の授業でも普通に教えて・・・あ―――」
 レースが顔をしかめて口ごもったその先の言葉は、聞かなくてもグラインダーズにはわ
かっていた。  武器と霊力を併用しての稽古をしているのは、男児のグループだけだ。 
この歳になると基本的な体操の他は、男児と女児に分かれて武術指導が行われているのだ。
 まあ、もちろん、習う前から習うより実戦で慣れてしまった、という弟のような変わり
種もいるわけだが・・・。
 グラインダーズはため息をついた。
「問題は山積みね・・・。でもレース、もしあの時に霊力を使っていたとしても勝てたかど
うかはわからないわ。・・・だって私の霊力は最近とても不安定になっているの」
「勝ててますって」
 相も変わらずこともなげにレースは言い放つ。
「・・・レース。一体そう言えるだけの根拠はどこにあるの?!」
 振り向いたグラインダーズが いらだつように睨み付ける。
「お嬢、自分が成長期だって事を忘れてんじゃないですか? 体が急激に成長するこの頃
は成長に伴って霊力だって増大する。力そのものが弱くなったわけではないのです。
・・・ただ、成長が急激すぎて体と霊力のバランスがうまく取れなくなるから、不安定にな
っているだけです」
「・・・だったら、なおさら!」
「―――そして最大の根拠。・・・それは王族の霊気が ふつうの天界人が持つ霊気とは
まったく違うというところです。 ・・・密度も練度も精度も。大気中の霊気を共振させる
その力も、何もかも全てが―――。」
「―――――嘘。」
 レースが笑ってこちらを見ている。 
「・・・ただ存在しているだけで、強者―――。王族とはそういうものなのですよ。」
 どうして、そんな恐ろしいことをあっさりと笑って言えるのだろう。
 その笑みの中に、何かが含まれていれば、少しは安心が出来ると思うのに。
「・・・・・ ・・・・・ ・・・でも、レース・・ ・・・・・それなら・・・私が、霊力を使って他の人に攻
撃するのは・・・卑怯、と言うことになるの・・・?」
「何故?自分が持っているモノを使うのが悪いことですか? 使えるモノを使って何が
悪いのですか? 下手な出し惜しみをして使わずにいればそれの価値は下がり、自分が危
なくなるだけ。・・・・・そんなことを言っていたら、蜂に針があるのも、鹿に角があるのも、
それこそ花に香りや蜜があることすらも、卑怯って事になりますね。」
 最後の言葉は何だか余計だと思ったが、グラインダーズは黙っておいた。
「・・・・・強者の『霊力』・・・か。 ・・・でも、レース。それじゃ何だか変だわ。
だって、アシュレイは血肉に溶け込み、霊気を精製しやすくする霊槍である斬妖槍で魔族
退治を行っているわ。・・・アシュレイはほとんど教わることなく武器と霊気とを併用し
て闘う術を身につけた。 そして確実に腕を上げ続けている・・・たった一人で大きな魔獣
をたくさん倒している。アシュレイは強いわ。
・・・それなのに、どうしてさっきあなたに、あんなに簡単にあしらわれてしまったの?」
「・・・・・」
 レースはアシュレイが離れたところで長棒相手に一生懸命格闘しているのを確認して
から、ぼそっと小さな声で言った。
「標的が大きいからです」
「・・・は?」
 話をそらされたのかと思ったが、レースは笑っていない。
「的(マト)が大きければ大きいほど矢は当たりやすいものです。アシュレイ様の霊力と
行動力は大人顔負けですが、いかんせん技術が全然追いついていない。
・・・言ってしまえば、思いきり力をぶつけていらっしゃるだけですからね。・・・だから小手
先技では簡単にあしらわれてしまうわけです」
「・・・・・でも、強いことには変わりないのよね?」
「申し上げておきますが、「攻撃は当たらなければ意味がない」です。正確に、相手のダ
メージになるような場所に当てなければ、たちまち反撃されます。・・・今はまだ大きな魔
族が相手だからいいですが、人型魔族の強者が相手だと確実に負けます」
「・・・・・・厳しいことを言うのね」
「魔族相手に負けることは「死」を意味します。 死より厳しいものなどありませんよ」
 レースは あっさりと怖いことを言う。 真実だから、怖いのだ。
 グラインダーズは何度目かのため息をついた。
「・・・結局、どんなに霊力が強くても、それを使いこなすだけの技術を身につけなければ、
意味がないのね」
 アシュレイが、レースに稽古をねだっている。レースが立ち上がった。
「・・・ま、そういうことです。どうします? 今まで通り稽古を続けますか?」
「続けるに決まっているわ。今まで通りだけじゃなく、文殊塾では教えて貰えないことも
ちゃんとね! ―――でも、そうね・・とりあえず喉が渇いたわ」
「承りました。王女さま」
 レースが笑い、思いがけない優雅さでお辞儀をして見せた。


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