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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.146 (2007/09/01 18:26) title:宝石旋律 〜嵐の雫〜(15)
Name:花稀藍生 (p1076-dng55awa.osaka.ocn.ne.jp)


「・・・ものの見事に全部吹っ飛ばしてしまいましたね・・・・・」
 かすれたようなスジのはいる遠見鏡の画面に映される境界の光景を見据え、桂花はため息
をついた。
 後先考えない壊滅攻撃をするのは南の太子だけではない。柢王も一見冷静に見えて頭に血
が上ると手に負えないことがある。
(・・・まったく、バカばっか・・・)と、もう一度桂花は小さくため息をついて、同じように遠
見鏡を見つめる隣のティアを見た。
「二人に帰環命令をだされますか? 守天殿。 今回は目撃者もあることですし、瓦礫の山
をかき分けて例の岩を捜すにも、いったん編隊を組み直す必要があると思われます」
「・・・・・ああ、そうだね・・」
 遠見鏡の画面を見つめるティアは心ここにあらずと言った様子で、応えた。
「それから、あと20分もすれば負傷者が天主塔に到着します。守天殿、どうぞご用意を」
「・・・・・ああ、そうだね・・」
「・・・守天殿?どうかなさいましたか?」
 ぼんやりと同じように返事を返したティアに、桂花が聞き返す。
 ティアは桂花のほうをゆっくり振り向き、それからまたかすれたスジのはいる遠見鏡の画
面に向き直った。その顔はかすかに青ざめていた。
「・・・・なんだろう、遠見鏡の調子がずっと悪い・・・ 嫌な予感がする」
  
  
 そして 中央と南の境界。
「・・・何だこりゃ」
 空中で柢王はあっけにとられて周囲を見渡した。
 土煙が漂っている地表は 見事なまでに更地になっていた。
 衝撃音波で瓦礫がことごとく吹っ飛んだせいである。
 アシュレイの技が直撃した場所に立ち上がっていた蒸気や土煙、熱い瓦礫もことごとく吹
っ飛んでしまっている。
 吹き飛んだ瓦礫は柢王のいる場所を中心として、かなり離れた場所に更地を取り巻くよう
にして積み重なっていた。
「・・・なんだこりゃ、じゃねえだろう!」
 いきなり後ろから頭を思いっきり叩かれて柢王は前のめりになった。
「・・・ゲホッ! お前だって人のことを言えた義理じゃねーだろーがー! ゲホゲホッ! 
前に言ってた“証拠の岩”があった場所ごと吹っ飛ばしてわからなくしちまったのは、お前
も同じだろーがー! ゲホゲホゲホッッッッッッ! ゴホッ!」
 振り返った柢王の背後で、アシュレイが盛大に咳き込んでいる。慣れている柢王は気づか
なかったが、特有の刺激臭が周囲に満ちている。アシュレイはそれをまともに吸い込んでし
まったのだ。
「オゾンだ。吸うな。 さっきの放電で発生し・・・・・・なんだ?」
 周囲を風で吹き払う柢王の肩をいきなり掴んで振り向かせ、顔をまじまじと見つめてくる
アシュレイに、柢王が怪訝そうな顔をする。
「・・・いや、さっき、お前の目の色が何か鉛色に見えたような気がしたから」
「―――――」
 無意識に額に上がりかけた手を、柢王は途中で押しとどめた。
「どしたんだよ?」
「何でもねーよ。お前が頭突きをくらわせてくれた頭が痛てーだけだ」
「イヤミをいうなぁ!」
 軽口を返されたが、さっき掴んだ肩の熱さや、顔色からして、柢王の体調はどうもよくな
いようだ。 そういえば今朝天主塔に呼び出された時に、柢王も帰ってきているが体調を崩
している、とティアが言っていたことをアシュレイはようやく思い出した。 今までのごた
ごたですっかり頭から抜け落ちてしまっていたのだ。
(・・・それでもあの威力かよ・・・)
 自分の結界にぶつかってきた攻撃の余波(そう、あれで余波なのだ)の衝撃の感覚を思い
出して、アシュレイは唇を噛んだ。その隣でのんきに柢王は周囲を見回している。
「・・・あれ?兵士達はどうした?」
「あいつらはな〜〜〜! 俺が目を瞑れって言ってんのに、おまえの雷光をまともに見ちま
ったのさ! どいつもこいつも涙ボロボロの雪目状態になっちまってるからしばらく使い
モンにはならない。南領へ全員直行させた! ・・・それにしても、お前ちょっとやりすぎだ
ぞ!あれは! 最初の一撃であのデカ虫は粉々になったってのに、後から後からじゃんじゃ
ん雷霆を落としやがって! おかげで俺は大変だったっての!」
「・・・・・ふ〜ん。そりゃ気の毒なことをしたな。・・・けど、アシュレイ。お前怒ってるけど、
俺の雷霆攻撃の規模があそこまででかくなっちまったのは、お前のせ・・もとい、お前のおか
げでもあるんだぜ? ・・・な〜んてな」
 笑って柢王は身を翻した。地表へとまっすぐに降下して、その姿はあっという間に土埃に
隠されて見えなくなった。
「ああ?!―――おい、柢王?」
 降下してゆく柢王の後を慌ててアシュレイが追う。

 ・・・降下しながら柢王は額に手をあてた。
 布ごしに伝わる熱さは熱のせいなのかそれとも―――
(・・・憶えていない)
 記憶が完全に途切れていた。 まともにあるのは、最初の一撃―――いや、もともと一撃
しか攻撃する気がなかったのだが―――だけだ。しかしそれすらも記憶が途中で薄れている。
 そして周囲の光景を見れば、一撃だけで終わらなかったのはすぐわかる。
(・・・俺の意志じゃない)
 戦闘の達人が意識を失っても闘い続けるという例は、たまにある。 柢王も魔風窟などで
一対多の混戦になれば、ほとんど本能だけで闘っている時はある。しかしそれは、敵をどう
斬るか、そしてどう敵の攻撃を避けるか、ということをのんきに頭で考えている場合でない
時の話だ。 けれど 感覚の内側に残る 獣のざらつく熱い舌のような――――あの、狂喜
の感触は―――・・・
「―――・・・!」
 地に降り立った足から力が抜けてゆきそうになるのを、柢王は必死で耐えた。
 額の布に当てた手の指に力がこもる。 布ごと何かをもぎ取ろうとするかのように深く額
に食い込むそれは、鋭く曲がった鈎のように強いものだった。その爪先がまさしく額の皮膚
を割って血を溢れ出させようとするその寸前―――
「・・・・柢王!」
 名を呼ばれて柢王は上を見た。アシュレイが後を追ってくる。
 アシュレイの降下が巻き起こす風で周囲の土埃が晴れ、彼の背後には広がる青空が見えた。
 上空をおおっていた土煙や蒸気がきれいサッパリ吹き飛んで、青空が広がっている。
 何一つ隠すもののない、抜けるような青空だ。
 その青空の向こうから、アシュレイが心配そうな顔でこちらに向かってくる。
(あいつは感情がすぐ顔に出るな・・・)
 それがうらやましくもあり心配の種でもある。 柢王はアシュレイに向かって手を振った。
ちゃんと笑えていることを祈りながら。
  
  
   ・・・・・ ピシャン・・ ―――

 冥界を渡る風は重く水気を含んでいる。
 肌に優しく触れて通るが ひやりとしている。
 その白い肌や髪に触れて通り過ぎる風のことなど一顧だにせず、階に座る冥界教主は金黒
色に光る眸で湖面を見つめている。。
 浮かび上がった負傷者達を回収し終え、冥界を薙いだ光に何事かと集まっていた魔族達も
すでに姿を消している。 湖面は再び静謐を取り戻していた。
 李々は対岸に座し、階に座る教主の姿を深い紅色の瞳で見つめている。
 教主の手元の扇がぱちりと音を立てて閉じられた。
 今、教主は黒き水を天界の結界内に送ることを止めていた。
 先の柢王による猛攻撃で、「力」を通すための管の役の魔族達の大半が脱落したと言うこ
とと、 結界こそ揺らぎはしていないが、中に満たした「水」が、ことごとく蒸発してしま
ったためだ。
「――――・・意外だったな。」
 手元の扇をもてあそびながら、教主が呟いた。
 李々は応えない。あれは独り言だ。対岸に座した李々は静かな表情でただ黙って深い知性
の宿る瞳で教主を見つめている。見守るかのように――――あるいは探るように。
「・・・天界人にも 牙と爪を持つ者がいる ということか」
 ぱちりと音を立てて扇を開く。そして閉じる。
 教主は湖面を見つめたまま、数度それを繰り返し、やがて高い音を立てて扇を閉じると、
それをそのまま階に置いた。
「・・・カケラはまだ残っていたな」
 教主は階から手を伸ばして黒い湖面に指先をひたした。
 ―――静謐な湖面の中央にふいに波紋が生じた。
 その波紋は消えることなく、その中央部からさらなる小さな波紋を生み出しながら湖の面
に広がってゆき、対岸に座す李々の膝元まで小さな波を寄越した。
「李々」
 湖面に指先をひたしたまま、顔も上げずに教主が呼んだ。
「はい」
 その声に李々が すっと片膝立ちの姿勢になる。
「正気で目覚めなかった者達は 全て殺せ。」
「!」
 李々の見開いた瞳に動揺が走る
 柢王の猛攻の際、巨虫に感覚を繋げていたがために、その雷撃の衝撃をそのまま『体験』
してしまい、感覚神経や精神系を焼き切られて湖に浮いた『管』の役目をしていた魔族達の
ことだ。今は李々の与えた鎮静剤で眠っている。
「・・・し、しかし」
「恐怖と狂気と幻の激痛だ。おまえの作る薬では治せまい。」
 ・・・―――――・・・・・!!!!!
 教主の言葉に呼応したかのように、叫び声が轟いた。鎮静剤が切れたのだ。
ただひたすらに何かから逃れようとする恐怖の叫び。一人のものではない。二人・・三人・・・
時を追うごとに叫び声は音量を増してゆき、打ち寄せ返す湖面と唱和するかのように冥界の
底を揺るがせてゆく。
「・・・・・・」
 叫び声の上がる背後に顔を振り向けたまま、李々は動けない。
「一時眠らせても同じ事だ。目覚めれば同じ恐怖と苦痛を繰り返す。」
 李々は教主を見た。水面に視線を落としたままの教主は、一瞬だけその金黒色の眸を李々
へと向けた。
「―――お前なら、わずかな苦痛すら感じさせることもなく、一瞬で終わらせることが出来るだろう」
「―――――」
 わずかな逡巡の後、全ての感情を深く奥底に押し込めた能面のような表情で、李々は教主
に深々と頭を垂れた。
「・・・―――御意 」
 李々は立ち上がり、教主に背を向けた。 艶やかな光を帯びて背に流れる赤い髪はすぐに
冥界の薄暗がりの中に溶け込んで見えなくなった。
 教主は一人になった。
 階から身を乗り出し、指先だけでなく手首まで黒き水に差し入れる。背に流していた金の
一房が肩口を流れ滑って湖面に落ち、扇のように広がった。
 波紋は生まれ続け、岸辺に打ち寄せ、帰ってくる波とぶつかり合い、湖面全体を揺さぶり
始めた。
 黒き水の飛沫が金色に輝いて湖面に降り注ぐ。
「一対一ならば、たやすく勝てるか。 ―――では、複数を相手にすればどうだ?」
 金に輝く黒き水の下で、教主の手が何かをつかみ取るように握り込まれた。
 ―――水面に打ち寄せ返す波紋の中より生まれ出た  数多の金の飛沫が一斉に上空へ
駆け上っていったのは、次の瞬間だった。


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