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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.127 (2007/06/17 23:01) title:桂花の留学生活6
Name:秋美 (121-83-25-213.eonet.ne.jp)

 翌日、いつも通り登校した桂花は、朝一番に理事長室に呼び出された。反応の早いことだ。
しかし、当然といえば当然だろう。
将来国政に携わる事が確実である王族が、半人前のうちから敵国の人間と関わって良いことなどあろうはずがないのだ。
今度こそ、完全に外界から遮断された場所に監禁されるかも知れない。どうせ遠からず処分される身だ。
多少扱いが手荒くなるくらいで嘆くような繊細な神経はとうに捨ててしまっている。
「粗相のないように」
 先導して歩いていた職員に念を押され、小さく頷く。
「理事長、留学生を連れて参りました」
「ありがとう、入りなさい」
「は、失礼致します」
 桂花も俯き加減に足を進め、理事長のデスクの前に立った。
「君は下がって良い。通常業務に戻って下さい」
「しかし」
「彼はこんな場所で私に害を及ぼすほど頭は悪くありません。下がりなさい」
「かしこまりました。しかし、何かございましたらお呼び下さい」
「私の身を気に掛けるのは君の職務ではないはずだ。余計なことはしなくていい」
「……出過ぎたことを申しました。お許し下さい」
 渋々といった様子で、桂花を案内した職員は出て行った。
 この状況に、桂花は少なからず驚いていた。扉が閉まってしまった今、理事長室には理事長と桂花の二人がいるだけだ。
「よろしいのですか。私のような者と無防備で向き合うようなことをなさって」
 思わず言ってしまった。
「構わないよ。伝えたいことがあっただけなんだ。立ったままではなんだし、そちらに掛けてもらえるかな」
 何でもないことのように応接用のソファを指され、桂花は軽い目眩を覚えた。
一対一で話すのは初めてだが、初対面と時とはあまりに印象が違いすぎる。
身柄を引き取られる時には、この理事長は物静かだが隠しがたい威厳を滲ませ、抑揚のあまりない言葉で最低限の言葉を発しただけだ。
「その方の身柄は我が学院で預かることとなった。身を慎んで学ばれよ」
 跪き、顔を伏せたままだった桂花は、まともに顔すら見なかった。
 その時の理事長と今目の前にいる理事長とが同一人物とは思えない。珍しいことに、桂花は本気で混乱していた。
「そんなに硬くならないで。とって食べたりはしないから。すぐに済ませるから、とりあえず座ってもらえるかな」
 再度すすめられ、ようやく桂花は動くことができた。
「失礼して、座らせて頂きます」
「うん。授業前に呼び出したりしてすまなかった。
私もいろいろ予定があって、朝を逃したら今日中に時間が取れるか分からなかったものだから」
「とんでもありません」
「単刀直入に言わせてもらおう。要件は二つだ」
「はい」
「できれば、柢王を裏切るようなことはしないでもらえると嬉しい」
「……は?」
 予想外の言葉に、眉をひそめてしまった。
「柢王は私の大切な友人だ。彼が悲しむのを見るのは忍びないから、お願いだけはしておこうと思ってね」
「ご命令では、ないのですか」
「君もいろいろなものを背負ってここにいるはずだ。命令したところで、聞けないこともあるだろう。
しても無駄なことは、私はしない。ただできるなら、柢王の味方になってあげて欲しいんだ。
彼がこの学院に入ってから、積極的に第三者に近づいたのはこれが初めてなんだよ。
君の掟と誇りに触れないなら、彼の傍にいてくれると嬉しい。これは柢王の友人としての頼みで、ただの希望だよ。
 君にもし何かあったら――恐らく柢王は自分の身分や立場を顧みないで動いてしまうだろう。
強引に引き離したりしたら、間違いなくそうなる。
そうなれば私は彼を処断しなければならないし、騒乱の火種になった君もただでは済まないだろう」
 つまり理事長は、自分の安全の為にも柢王の傍にいた方が良いと言っている。
「私といることで、彼の立場が悪くなるのではありませんか」
「うん。なるだろうね」
 あっさりと、理事長は認めた。
「昨日柢王が私に君の保護を訴えに直談判をしにきたんだけど。私もはじめは止めたんだよ。
関わらない方が良いって。でも聞くものじゃない。
だから友人としては、できる限りのことはしようと思ってね」
「……」
「公に私の権限が及ぶのは学内だけだ。ここにいる限りは、柢王も君も守ることができる。
でも、何かあってそのことが外に漏れたら、私は私情で動くことは許されない。わかるね」
 公人としての理事長を初めに見ている桂花は、実感を持って頷いた。
「できる限りご期待に添えるよう、努力致します」
「ありがとう。あとできれば、君に私が言ったことは柢王には内緒にしておいてくれると助かる」
「はい」
「そして二つ目なんだけど。保健医から正式な要請が昨日あってね。君を助手に欲しいそうだ。
時間のある時には保健室に顔を出してもらえるかな」
 昨日の今日だというのに、一樹はさっそく動いてくれていたらしい。
有言、即実行の見本を見せつけられたような気分だ。
「喜んで、お手伝いさせて頂きます」
「そう、ではお願いしよう。話はこれだけだよ」
「はい。失礼して授業に行かせていただきます」 
 一礼して立ち上がる。
「桂花」
 そのまま出て行こうとした桂花の背に、声がかけられた。
「私は、東に貸しを作るために君を引き受けた」
 桂花は足を止めた。
「連中は体よく君をここで始末するべく機会を狙っているはずだし、私はそれを黙認するつもりだった」
「当然のことかと存じますが」
 振り向かずに答える。
「でも柢王が流れを変えた。君が生き延びるための細い一本の道を、柢王は作ろうとしている」
「……」
「まだ死ぬつもりがないのなら、生き残る努力をして欲しい。君にはそれだけの知恵があるはずだ」
「おとなしく殺されるのは、御免被ります。吾には自虐の趣味もありません。……ありがとうございます」
 無礼とは思いつつ、最後まで振り向くことはできなかった。
ポーカーフェイスのままでいる自信がなかったのだ。


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