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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.116 (2007/05/09 22:45) title: 統一地方選挙(12)
Name:モリヤマ (i220-221-231-207.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
『この入場券を持って投票所に行き、係りの指示に従い、投票したい候補者の名前を触って下さい』
 
(……名前を触る?)
 
 投票3日前に各戸に配布された投票入場券に記された注意書きを見て、領民達は首を傾げた。
 
 
 投票所は、選管の指示で各国割り当てて急ピッチで造られた。人一人が入れるくらいのボックス――箱形状の建物――で、奥には選管からの指定机がひとつ、出入り口は正面の一箇所のみ。 
 いったいこんなボックスと机でどうやって投票するのかと、急遽建造を依頼された各国も不思議に思い問い合わせたが、選管からは、投票装置は当日委員長自らが配備するとの返答が届いただけだった。
 
 そして、いよいよ投票当日の早朝。
 各国の主だった街を中心にそれぞれ数十箇所ずつ設置された投票所では、すでに各国武将とその配下数名ずつが警備を兼ねた投票係として配置され、集まってきた有権者の入場券チェックに当たっていた。
 チェックの終わった者から順番に、ひとりずつ投票の際の注意を受けてボックスの中へと誘導されて行く。
 
――奥の机の上に、候補者の名前の入った石が置いてあるから、
――投票したいと思うほうの石を一度だけ触って、出てくるように。
――それで投票は完了だ。2回触ったり、両方触っては駄目だぞ。
――無効になるからな。
 
 中に入り、係りの者に告げられたとおりに奥の机の上を見ると、大人の肩幅くらいの間を空けて左右に置かれた真っ黒な石があった。
 向かって右の石にティアランディア、左にネフロニカの名が刻んである。
 その碁盤を縦半分に割ったくらいの大きさの石。
 その石こそが、デンゴン君が遠見鏡から各投票所に飛ばした、返答にあった投票装置、つまりこの統一地方選挙にあたり選管自らが最上界から持参した投票用の石だった。
 
 
 
『ソシタラ、ヤルカー!』
アウ 「今日ばかりはデンゴン君の腕の見せ所だな」
『我ノ 一人舞台。我ハ、コノタメニ、天界ニ 来タ。』
アウ 「…そうだな。だが、」
『ナニ?』
アウ 「いや、なんでもない。今日は頼むぞ、デンゴン君」
『任セロ!』
 
 投票開始時間とともに、仮の選管室である執務室の遠見鏡の前に陣取ったデンゴン君は、降ろした両手をひじの高さにまであげ掌を上に向けて開いた。 
 そうして、目の前の遠見鏡に映しだされる各投票所を瞬きもせず見つめ続ける。
 デンゴン君の額の御印がほのかに光りを帯びたかと思うと、後方で見守るアウスレーゼの目に、デンゴン君の両の掌に透明な柱が少しずつ背丈を延ばしていくのが見えはじめた。投票所に置かれた特殊な石と遠見鏡を連動させて、得票の逐一を、この小さな人形が集結、集計しているのだ。
 
アウ 「一人舞台か。…まさにその通りだな、デンゴン君」
 
 柱は、右の掌がティアの得票、左の掌がネフロニカの得票で、それぞれの得票数により相対的に背丈を延ばしたり縮めたりしていた。
 このまま投票終了時間がくれば、その掌の柱の背丈で一目瞭然に結果が分かる。
 
「もうすぐ、また、あの子達ともお別れか……。だが、我よりも、そなたのほうが寂しかろ…」
 そう思い、デンゴン君には聴こえないと知りつつ、そっと声に出して問う。 
「そなたは、このために天界に来た、と言った。その言葉に間違いはないが、我には、それだけとは思えぬのだ…」
 
 デンゴン君とともに天界に来てからの日々を思い出すアウスレーゼの瞳は、優しさにあふれていた。
   
 
 
 
 
 
『ト、イウコトデ。守護主天ハ、てぃあらんでぃあ ノ 続投 トナリマシタ。』
 
 投票が終了し、それとほぼ時を同じくして集計が終わると、アウスレーゼは選挙部屋で待つティアに心話で呼びかけ、選管部屋に来るように伝えた。
 投票所警備のため各地に赴いているアシュレイ、柢王、桂花を除いた珀黄・江青の両名も一緒だ。
 
珀黄 「おめでとうございます、守天様!」
江青 「おめでとうございます…!!」
ティア「ありがとう。…ありがとう」
 
 結果を聞いて、涙を流さんばかりの江青と感無量な珀黄に、ティアが心からの礼を述べていると。 
アウ 「守天殿、ちょっと」
 名を呼ばれ、手招きされて近づけば、アウスレーゼが小声で続けた。
アウ 「ネフロニカと話してはみぬか、守天殿」
ティア「…いいえ」
アウ 「あの子も、他の兄弟達も皆、そなたのことを思ってのことなのだ。
    それだけは分かってやってほしい」
ティア「………」
 あまり理解したくはないが、アウスレーゼの言葉なら嘘ではないのだろう。
 はい…とティアが答えると、アウスレーゼはひとつ頷いた。
ティア「アウスレーゼ様。山凍殿には…」
アウ 「そなたへの報告のあと、遠見鏡から伝えた。…ネフロニカとは、
    昨夜のうちに別れは済ませたそうだ。あとで直接そなたに祝辞を
    述べたいと言うておった」
ティア「そうですか…」
 
 そこへ、大急ぎで帰ってきたアシュレイと柢王・桂花のふたりが同時に部屋になだれ込んできた。
 
ティア「…早かったね」
アー 「結果は…っっ!?」
ティア「おかげさまで」
アー 「そうか…。よかった。……よかった」
 
 何度も「よかった」と繰り返すアシュレイの後ろで、柢王と桂花も目でティアに祝意を表す。
 そして、突然ハッとしたようにアシュレイが回りを見渡して、もう一度「よかった」と呟いた。
 その目には、デンゴン君とアウスレーゼが映っていた。
 
 
 
 そうして、そのまま守護主天当選証書付与式が行われた。
 
『てぃあらんでぃあ・ふぇい・ぎ・えめろーど。』
ティア 「はい」
『ソナタ ニ、コノ天空界デノ 全権 ヲ 委ネマス。シカシ、アクマデ、民主主義トイウコトヲ忘レテハナリマセン。…全権 トハ「スベテノ権力」ヲ言イマスガ……、守護主天殿、』
 
 改まって役職名で呼ばれ、ティアは再び、はいと答えた。
 
『権力 ノ 「 権 」 トハ 「ごん」、ツマリ、仮ノモノ、真実デハナイモノ ヲモ意味シマス。カリソメデナイ、真実ハ、自分自身デ見ツケ、手ニ入レナサイ。天界ノ人々 ヤ、人界ノ人々、ソレラガアッテコソノ、ソナタナノデス。良ク、治メ、導カレルヨウニ。』
ティア 「……はい」
『…我ハ、守護主天ニ、「ごん」ノ意味ヲ 伝エルタメニ、来タ。ダカラ、』
 
 デンゴン君。
 伝権…君、だったのか…。
 
 その場に居合わせた全てのものが、ちょっと驚いた。
 まさか、デンゴン君のネーミングに、メッセンジャーとしての意味以外があるとは、これっぽっちも考えてなどいなかったので。
『…ナントナク、失礼 ナ 空気……?』
 
 
 
 
 
 
 
『つんつん、マタナ…?』
桂花 「………」
『つんつん…』
柢王 「おい、桂花」
桂花 「…吾は天界人じゃありませんから、」
『?…ダカラ?』
桂花 「いえ、なんでもありません」
『ダイジョブ。つんつんガ ドコニイテモ、マタ会エル。約束ノ言葉ナンダッテ。ドコニイテモ、マタ会エル。ナ、あしゅうれい?』
アー 「ああ!」
『マタナ、つんつん』
桂花 「はい…。また」
『……つんつん ノコト 泣カスナヨ』
柢王 「はー!? なに言ってんだ、おまえっ」
桂花 「お気遣い、ありがとうございます」
柢王 「おまえもっ、なに礼言ってんだっ」
 
アウ 「やはりデンゴン君は、人の機微に聡いの…」
 
アウ 「珀黄、江青を頼むぞ」
珀黄 「・・・・・・・はい」
 心の中で、「なぜ?の嵐」な珀黄だった。
 というか、選管の方も、最上界へ……?
 いやいや、たぶんこれは、自分などが追求していい問題ではないのだ。
 ……日常は目の前だ。
 そう自分に言い聞かせ、珀黄はスルーを決め込むことにした。
 
アウ 「ではな、江青。元気でな」
江青 「はい。アウスレーゼ様も。……お世話になりました」
 
 ……本当は、もっといろいろとお世話したかったのだが。
 なにせ、最初にプラトニック発言をしてしまった手前、妙にそれを守ってしまい、少々後悔中のアウスレーゼだった。
 
 
『天空界デノ選挙結果、選挙管理委員長トシテ、三界主天様ニ タシカニ オ伝エ シマス。』
ティア「それにしても、こんなに早く結果が出るとは思いませんでした。
    デンゴン君、見事なお手並み、おみそれしました」
『コノ 選管まーく ハ、伊達ジャナイッテカ?』
アウ 「…デンゴン君、それは選管マークではなく、御印。
    …くれぐれも三界主天様の前でそんなおもしろいことは
    言わないように」
『ナンデー? キット、三界主天 モ 楽シガルト思ウノニー?』
アウ 「それと、三界主天様を呼び捨てにしないこと。これだけでも、
    肝に銘じてくれ」
『肝ー? ソレ、我ニモ アルノ?』
アウ 「なかったら、今度三界主天様に御願いして追加してもらえばよい。
    『様』は忘れるでないぞ?」
『ハイハイ』
アウ 「まったく…小猿みたいになったな、デンゴン君は」
『ソレ、知ッテルー。馴レルト可愛イッテ。我モ、ソンナ感ジー?』
アウ 「ああ、ああ、可愛いとも。…それでは行くか」
『…………ウン』
アウ 「また、会えるさ」
『…………ウン』
アウ 「デンゴン君。……我は?」
『神ナリ』
アウ 「だったら…」
『我ノ アルベキトコロヘ 帰ル。』
アウ 「よし、では行くぞ」
『ウン』
 
 デンゴン君を腕に抱き、その場の皆に、ひとときの別れを告げる。
 
アウ 「では、またな」
『マタナ…!』
 
アー 「おーっ! またなっ!! 絶対、またなーーーっっ…!!」
 
 バルコニーから身を乗り出し、千切れんばかりに手を振るアシュレイの後ろで、名残顔のティアたちが静かに彼らを見送った。
 中庭では、宵闇の中、咲き渡る花達が風もないのにかすかにその首を揺らしていた。
 
 そうしてアウスレーゼとデンゴン君は、最上界へと帰っていったのだった。
 
 
 
 〜〜〜〜・〜〜 * 〜〜〜〜 * 〜〜・〜〜 *〜〜〜〜〜 * 〜〜・〜
 
 
『天主塔ニュースの時間です。
 はじめに、選挙管理委員会からのお知らせです。
 今日、統一地方選挙の後半戦、天空界新守護主天選挙の投票が
 行われ、現職のティアランディア・フェイ・ギ・エメロードが、
 新人のネフロニカ・フェイ・ギ・エメロードを破り、再選を果たしました。
 天主塔では、当選証書の付与式が行われ、選挙管理委員長から証書を
 受け取った新守護主天は、感慨深げな表情を浮かべていました。
 これにより天空界における統一選挙は終了しました。
 次回の統一選は、4年後を予定しております』
 
柢王 「また、やんのかっっ!?」
桂花 「…それが民主主義というものらしいですよ」
アー 「またアイツ、来るよな…っっ!?」
江青 「また…会えますね」
 
 選管の残していったニュースに喜ぶアシュレイに、ティアも思わず苦笑がもれる。
「守天様…守天様っ!」
 そこへ、声を押し殺して珀黄が鼻息荒く迫ってきた。
珀黄 「守天様、お願いがございますっ。どうかどうか、
    4年後までに江青を、天主塔勤務から遠く離れた地方へと
    異動させて下さい…っ!」
ティア「い、異動…!?」
珀黄 「守天様っ、江青には妻と子が…っ!!」
ティア「わ、分かってるよ。それはもう耳タコだって…」
珀黄 「分かっておいでなら、お願いでございます…!
    江青には、年老いた父母やまだ嫁にもゆかぬ姉や妹がっ…!」
ティア (いつのまにか増えてるじゃないか…)
アー 「…おまえ、なに珀黄泣かせてんだ?」
ティア「わっ、私が泣かせてるはずないだろっ!?」
珀黄 「守天様ぁっ…!」
 
(なにが、家庭に波風を立てる気はない、だっ)
 
 ひとり激浪状態の珀黄に、窓の外、うらめしげに天空を仰いだティアは、大きなため息をついていた。
 
 
 


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