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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.112 (2007/05/09 22:43) title:統一地方選挙(9)-前
Name:モリヤマ (i220-221-231-207.s02.a018.ap.plala.or.jp)

 
「目指すは、パラダイス――!!
  (左手腰に、右は突き上げた拳に人差し指を立て、
    不敵で妖しい笑みを浮かべた仁王立ちネフィーの写真)
         雇用促進を第一に考える、ネフロニカ です。」
 
「クリーンな天界を、あなたとともに……。
   (まなざし落としのドアップ・ティアの写真)
       ティアランディア・フェイ・ギ・エメロード」
 
 選管チェックが入ったらしく、思ったより普通のポスターが街中に張られている。たまに剥がされているのは、候補者の熱烈なファンか、それとも危険なアンチか……。
 
 
 
さて。
選挙戦も中盤に入った、ある夜のティアの選挙部屋。
 
桂花 「あちらの方、昨日の個人演説会では、背中にありえないくらい
    大きな羽根を背負ってたらしいですね」
柢王 「北じゃ、そのためにダチョウ2000羽絞めたって話のか?
    ……馬鹿馬鹿しい」
 
 冗談だろ、そりゃ。と、この事務所部屋へ来しな、廊下で小耳に挟んだ使い女達の立ち話を思い出し、柢王が呟く。
 
アー 「…に、にせん…って、う、嘘だろ…っ」
 
 だが、動物好きなアシュレイにそんな冗談は通じない。
 
桂花 「…珀黄殿は、昨日は偵察には?」
珀黄 「一般道や広場とは違い、個人演説会へは、ちょっと……。
    ただ、演説会帰りの者に聞いてみたところ、異様に…いえ、非常に
    派手だったと。衣装替えも数回あったそうです。確かに、関係者の
    会場入りの際、大量の衣装ケースが運び込まれておりました」
柢王 「…演説会で衣装替え?」
 
 いったいどんな演説会だったんだ? と、柢王はもちろん桂花も隣で呆気に取られる。
 
江青 「そんなことのために2000羽の命を…? 山凍様に限って、
     そんな…まさか…っ」
桂花 「ただの噂ですよ。第一この選挙の実施自体、突然決まったもの
     だし、ダチョウを絞めて…なんて、そんな時間なかったでしょう。
     そもそも2000羽なんて数字、いったいどこから…」
 
 そんな数字が出ること自体、眉唾物だ。
 だが、呆れたように呟く桂花とは反対に、江青の顔色は依然冴えなかったし、アシュレイの表情も固いままだ。
 
 
珀黄 「こちらも街の噂ですが。
    ……聖水も手光も、作ってナンボ、人を治してナンボのもの。
    ネフィー様当選の暁には、長生きで楽しい老後が待っている。
    今の守天様のケチケチした聖水作りや出し惜しみの手光など、
    綺麗さっぱりおさらばして、ネフィー様とともにこの天界を
    至上のパラダイスに!……という声がありました。
    実際、あちらのマニフェストでは、雇用促進以外の目玉として、
    聖水はもちろん、特に手光に対する、今の守天様への批判と、
    全ての者達が平等に手光を受ける権利を持つ、手光チケット制の
    導入が謳われています」
 
柢王 「雇用促進って、男の使い女とかいう奴だろ?」
珀黄 「はい…」
桂花 「そんな話、前にもありましたねぇ…」
 いったい、天界人というのはなにを考えているのやら…と呆れたように桂花が呟く。
江青 「雇用促進だなどと…。選挙の結果如何では、早々にリストラの
    危機に直面する可能性が高い『天主塔使い女協会』はもちろん、
    『全使い女協会』は、現守天様派だと聞いております!」
柢王 「ティアの奴、使い女に人気あるしな〜」
 
 そう言って笑いながら柢王が、桂花の淹れてくれたお茶を一口飲もうと碗を口に持っていく……と、一滴もない。おや? と思う間もなく、部屋の気温が急上昇しているのを感じた。
 
アー 「…ざけんなっ!!」
柢王 「アシュレイ?」
 
(守天の…ティアへの批判だと…っっ!?)
 
アー 「聖水だって手光だって、そんな簡単にできると思ってんのかっ!?
    アイツはいつだって、自分を後回しにして自分にできる以上のことを
    やってきた。山ほどの仕事を、朝から晩まで、休む間もなく…っ。
    アイツは…ティアはっ、いつもいつも限界まで無理して頑張って、
    守天やってきたんだ…っっ!!」
 
 昔から、いろんなことを我慢して、堪えて、それでも天界や人界のために頑張ってきたティア。
(守天としてのティアの苦労を一番わかってるのは俺だ…!!)
 そんな思いが、アシュレイの拳を震わせ、その真っ赤な眼をなお赤く潤ませる。
 
アー 「…そんなことも分からねぇ奴らに、天界を任せられるもんかっ!
    ティアだけが、唯一無二の守護主天だっ!!」
 
 悔しくて悔しくて……。
 なにより、ちゃんと言葉で伝えられない自分に腹が立つ。
 ティアはずっと頑張って守天やってきたのに……。
 
「……けど、」
 
 それだけのために生きてるわけでもねーんだ……。
 
 アシュレイの力ない呟きが、小さく部屋に響いた。
 
柢王 「まあまあ…。熱くなるのも分かるけどな、選挙ってのは結局足の
    引っ張りあいだ。煽ったり煽られたり、のせたりのせられたりだ。
    出所の知れねぇ噂話くらいで、わだかまりを残すんじゃねーぞ。
    それとな、死ぬほど暑いんで、もうちょっとばかり涼しくしてくれ」
アー 「……てめぇっ!」
 
 いつもは頼りになる柢王の冷静さに、今は憎しみさえ感じる。
 
「柢王殿の言うとおりだな」
 
アー 「アウスレーゼ…!」
 
 いきなり現れたアウスレーゼに、アシュレイや柢王・桂花と違い、やはりなかなか慣れない珀黄は一瞬びびったが、それ以上に何度遭遇しても慣れない従兄弟の江青の腰を抜かし椅子からずり落ちんばかりの驚きように、珀黄はすばやく反応し、従兄弟の腕を掴み引き寄せる。
 
アウ 「…………」
 
珀黄 「え…? わ、私ですか? 私が、なな、なにかっ…!?」
 
 突然現れた美貌の選管委員に無言でじーっと見つめられ(←ちょっと違う)、珀黄は再び、びびった。
 
『あうすれーぜ、残念ー?』
アウ 「いや…まあな。…ふ。それにしても、デンゴン君は人の表情をよく
     読む子だな」
 
 苦笑交じりにそう言って、用件を口にした。
 
「アシュレイ。選挙は、そなた達だけのものではない。たとえば今ここに候補者である守天殿がいるとする。その守天殿の周りには、守天殿を応援するそなた達がいる。そしてまたその周りには、守天殿を支持する無数の者達がいる。そなた達が知っている者もいれば、名前も顔も知らない者もいる。ただひとつ、守天殿を当選させたいと願う心だけで繋がる者達だ。だがその一心で、もしかしたら、あちらの新人候補や北に不利な行いをする者がおるやもしれぬ。ありもしない情報を流してあちらの妨害を考える者がおるやもしれぬ」
 
アー 「そんな奴いるもんかっ!!」
アウ 「たとえばの話だ」
アー 「…くそっ」
アウ 「同じようなことが、あちらでも起きていたりしてな」
アー 「まさかっ…」
アウ 「可能性の話だ。だがもしあったとしても、北の山凍殿は、
    それでそなたや守天殿に不審を感じるような男なのか?」
江青 「いいえ! いいえっ、山凍様は、北の毘沙王様は、決して
    そのような器の小さな方では…っっ!!」
 
 江青の必死な声に、アウスレーゼはそっと微苦笑を浮かべた。
 
アー 「わかった。俺が浅慮だった。…山凍は、そんなことする奴じゃねぇ。
    ダチョウだって…」
 
 あの孔明があれほど信頼している北の王なのだ。
 たかが装飾のために、そんな非道なことをするはずがない。
 
 というか、アシュレイは忘れているようだが、ダチョウは北にはいない。南と東の境界辺りの草原に生息しているため、北だけの意向でどうこうできる鳥ではなかったりする。
柢王 (ちょっと考えりゃ分かることだっつーの…。/笑)
 
 
アウ 「うむ。この天界を争わせるための選挙ではないのだ」
アー 「……ん」
 
 アシュレイの意気消沈ぶりに比例して、部屋の気温が下がり始めた。
 皆がホッ…と安堵の息をついた、そのとき。
 
『………あしゅれい?』
 
(ドウシタノ…?)
 アウスレーゼに対して力なく頷くアシュレイに、デンゴン君は考えた。
 結果――――。
 
――――――― ビィィィィィ……ッッ!!
 
アウ 「どわっ…!! デ、デンゴン君っっ!?」
 
 デンゴン君の銀の双眸が光ったと思った瞬間、アウスレーゼ目掛け一直線に眼光ビームが発射された。
 
『あうすれーぜ、あしゅれいノコト、イジメルナ!』
アウ 「こっこれは、いじめたのではないぞ…こらっ…!
     や、やめなさいって」
 
アー 「…スゲーっっ!!」
 
 ビーム連射のデンゴン君と、不思議な踊りを踊っているかのように飛び跳ねるアウスレーゼを見つめるアシュレイの目は、きらきら輝いていた。
 
アー 「おまえ、すげぇなっ!!!」
 
 アシュレイの弾んだ声で、デンゴン君のビームが止まった。
 
『……我、スゴイ?』
 
 エヘ♪ という照れ笑いが聴こえてきそうな人形に、駆け寄り感動しているのはアシュレイだけで、他は全員、ひいている…。
 
江青 「アウスレーゼ様っ…大丈夫ですかっ…!!」
アウ 「…あ、ああ。すまぬ、江青」
江青 「いえ、いいえ! いつも私のほうが…」
アウ 「悪いが、少々めまいがするので、部屋まで送ってはくれぬか」
江青 「お部屋…へ?」
アウ 「ああ、頼む」
江青 「は、はい…」
 
 
――――グッジョブ、デンゴン君!!
 
桂花 「…柢王、」
柢王 「ああ……」
 アウスレーゼの声なき声が聴こえた気がして、ふたりは思わず声をかけあった。
 
 
 


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