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投稿(妄想)小説の部屋 Vol.3

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No.11 (2006/09/13 16:04) title:ひだまり
Name: (j012181.ppp.dion.ne.jp)

 シトロンのグラスにアメシストひとつぶ。
 小さな泡を身にまといながら落ちてく紫が、きれい。

 耳元からころんと外れたアメシストをアシュレイはふざけてグラスに落とした。以前なら紫水晶がついているアクセサリーは決して身につけなかった彼が、最近さり気ないセンスの良さで使用するようになった事にティアは気づいていた。
「甘すぎた?」
「いや、ちょうど良かった」
 あたたかいお茶を用意していたところ「ちょっと甘くてサッパリしたのが飲みたい」と恋人がリクエストしたので、ティアはシトロンをつくって出したのだ。
 アシュレイはグラスをゆらしてレモンの香りを楽しみながら氷の間におさまったアメシストを見つめている。
「桂花と一緒じゃなかった?」
「あいつも誘ってたのか」
「うん、声かけといたんだけどな」
「冰玉いたし、どっか散歩でもしてんだろ」
 ついさっき、お茶にしようとアシュレイの姿を遠見鏡で探していたら、思わぬツーショットが目に飛び込んできた。
 最近のアシュレイは、桂花にたいする心境の変化があらわれ始めている。以前なら慌てて二人の間に入っていたが、その心配も今は無用だ。
ティアは何を話しているのか気になって、そのまま画面に集中した。

『ったく、俺の顔見りゃ攻撃してきやがってしょうがねぇ奴だ』
 アシュレイの手から桂花の手に渡った青いものが冰玉だと、すぐに分かる。
『人がせっかく足に絡まった蔓を取ってやろうとしたのに、突っつきやがって』
 アシュレイの手の中にいた時は大暴れだったのに、すっかり大人しくなった冰玉。
『冰玉はあなたの事、吾を邪険に扱う敵だと認識しているから』
『なにぃ?いつ俺が――――』
 言いかけて、思い当たる事が山ほどありすぎたアシュレイは押し黙る。
『それに。あなたの護衛も相当なものですよ、吾がここに来るたび威嚇してくる』
 護衛?と首をかしげると、桂花がアシュレイの後ろに視線をうつした。見ればリスやら鹿やら鳥たちが、遠巻きにして自分達の様子をうかがっている。
『あれが護衛?ハハッ、たいしたもんだな』
『ですね』
 二人の会話はウソのように穏やかに進んでいる。
「・・・・・なんだ、思ってた以上に上手くいってるじゃない」
 ティアは微笑んで遠見鏡を消し、椅子に腰掛けた。
 もともとアシュレイの心は柔軟性が高いから、変な意地を張らなければ桂花との仲だって自分よりも上手く、深く関われるのではないかと思う。
 言葉の通じない、人を警戒する野生動物がいつの間にかアシュレイには気を許し、体を触らせているところを見たのは一度や二度ではない。
 魔族である氷暉との共存も成功させた彼。
 言葉や態度だけではないなにか・・・心の奥深くに届くなにかをアシュレイは発する事ができるのだと思う。
 桂花は、言葉は通じるけれど思考に多少のずれがある。アシュレイと氷暉のような関係ならそれでも大した問題ではないかもしれないが、柢王と桂花は恋人同士だ。
 桂花が抱える不安を排除してやろうと説得を試みても、彼の思考の根本には柢王が言わんとする事が欠如しているためうまく伝わらない。
 それは魔族と天界人という、種族が違うが為のすれ違い。
 初めから欠如している考え方をいくら説得されても、分からないものかもしれない。それでも柢王は諦めないのだ。何度でも。いくらでも、桂花に付き合う。
 ――――――――柢王は強い。
 自分の存在が柢王の立場を不利にしてしまう、と桂花が不安になる度・・・・それでもやはり柢王のとなりが自分の居るべき場所なのだと桂花自らが決心するまで、決してその手を離さない。何度くり返されてもとことん付き合う。
 自分だって・・・・アシュレイの手を離すつもりなど毛頭ない。しかし、自分に離すつもりが無くても振り払われたまま失ってしまう可能性はゼロではないのだ。
 無鉄砲なアシュレイは恋人であり守護主天である自分を守る為に無茶をする事が多いし、短絡的思考で最悪な事態を選ぶこともある。そのたび彼を失ってしまうのではないかという恐怖に立ち向かいながら必死で救い、奪還するのだ。
 まだまだ柢王のように上手くはできないが、最近ではそれも自分達のひとつの在り方なのだろうと思えるようになってきた。

「・・・・・アシュレイ、どこへも行かないでくれ」
 こんなに近くにいるのに、愛しい体が遠く感じられてティアはすっかり細くなった腕を掴んだ。
「なんだよいきなり。どこへも・・・・ってのは、困るけどな」
 満更でもなさそうにアシュレイは甘え上手な恋人の頭を抱いてやる。
「ダメ、どこへも行ってはいけないよ。もうずっとここにいて。私から離れないで」
「お前な〜」
「できない?」
「できるって言うのかよ」
「・・・・・いじわる。それじゃあこうしちゃう」
 ティアはシトロンのグラスをいっきに傾けた。
「あ―――っ!?俺のっ!」
 驚いてティアの頬を両手で挟んだアシュレイの細腰をつかまえて、いたずらっ子のようにチロ、と舌を出してみせる。
 きれいなピンクの舌の上に、紫の石。
「返して欲しかったら、奪ってみせてよ。手は使っちゃダメだよ」
 挑発するような瞳に負けじと、アシュレイの顔が近づく。心なしかティアの顔が期待に染まった。
「――――ばぁか。そんな挑発にのるかってンだ、欲しけりゃやるよ」
「・・・・・・失敗」
 ティアは残念そうにアメシストを出し、聖水のグラスに落とす。
 アシュレイが笑いながら立ち上がって大きな窓を開け放つと、招かれた風に誘われて薄いカーテンが舞った。
 グラスの中のアメシストが、わずかな光をとらえてキラリと光る。
「あいつ、呼んでくるか?」
「そうしてもらえる?」
 アシュレイは頷くと、開け放った窓から桂花を探しに行った。
 優しい気持ちに包まれて、胸があたたかくなる。
 こんな時間を満喫したい。
「こっちは大丈夫だよ柢王・・・・・心配いらない。いらないから・・・・・」
 早く帰ってきて欲しい。桂花の為にも早く。

 今はただ・・・・無事に共存を終えた柢王が訪れる日を、心待ちにしている。


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